2019年6月11日~7月6日
梅雨の始まりは、椅子をモチーフにした絵を描き続ける作家・武永リヨさんの個展「また晴れたらあそぼ」でした。
リヨさんは、パンオスリールでの個展は3回目、グループ展を含めると5回以上のギャラリー展示。毎回、新しいことに挑戦してくれます。
会場を知り尽くしたアーティストの、今年の展示はどんなだったのでしょうか。。
●皆を驚かせた丸いキャンバス----------------
店内に足を踏み込んだとたん、誰もが一様に驚くのが、今回、すべての作品を”丸いキャンバス”に描いていることです。
絵はもちろんのこと、このキャンバスが、今回のテーマを表現する重要な役割を担っています。
まんまるあり、楕円形あり、舟のような形をした半円形も。。
リヨさんは語ります。
「私は、このパンオスリールの空間が好きです。ほかのアーティストの展示の時もよく訪れますが、皆さん、この空間をどんなふうにしようかなといろいろ頭をめぐらせ、チャレンジする作家が多いと思います。私は、1年前から、この丸いキャンバスでいこうと決めていました。」
一番広い壁一面には、彼女の表現の一つである「ぐるぐる」。うずまきのようなモチーフの上に椅子があったり、うずまきに巻き込まれるような椅子も。感情の動きを表現しているようでもあり、漫画の吹き出しのように、何かを語っているようにも見えます。今回、このぐるぐるを丸いキャンバスに描いたことで、伝えたいイメージがより明確になっているように見えました。
ぐるぐると直角に広がる壁面には、小さな丸いキャンバスが所狭しと飛び跳ねています。丸いもの、楕円形、大きさもいろいろ。
あえて、少し童画のようにもみえる手法で、キットパスも活用しながら、背景はなく、シンプルに、椅子だけを描いた小さな作品を数多く配置する。これも、彼女の今回の個展の手法です。梅雨を吹き飛ばす、ポップで楽しい空間が広がります。
カフェスペースの広い壁には、舟のようにも見える半円形の大きな作品。こちらはビルや家、舟をイメージして、海も。その中で、並んで腰掛ける椅子たち(椅子が腰かけている、というのもおもしろいですね)が描かれました。独特の赤とブルー。リヨさんならではの世界です。
周囲には、キットパスで描かれた小さな椅子たち。こちらには、アウトラインをあえてひいいていないやさしい作品も数多くありました。
アクリル絵の具に加え、砂や、キットパスも活用した、リヨワールドが広がりました。
1カ月の会期中に、少しずつ、新しい小作品が増えていく楽しみもありました。
●今年はウィンドウアートにも挑戦-------------------------
最近、意欲的な作家さんの中で、パンオスリールの大きなウィンドウに絵を描く方が大変増えてきました。
画材キットパスの面白さが、ここ数年で、パンオスリールにご縁のある作家さんたちの中で浸透してきました。
ガラスに気持ち良く描けるキットパスを使って、リヨさんも、大作に挑戦しました。
写真右下には、ちょうど居合わせた版画家・上野兼介さんが。ライブパフォーマンスをたまたま独占できて、特しましたとおっしゃっていました(笑)
こちらは、明け方の椅子たち。開店前の店内の様子です。カーテン越しに少しずつ、椅子たちが姿を現す。
まるで、舞台を見るような光景です。
こちらは外から見た夜の様子。
昼間と表情を変えた椅子たちです。
●たくさんのファンと楽しい1カ月-----------------------
とにかく、リヨさんはファンが多い。そして交友関係が広い。彼女の在廊する日もしない日も、ひっきりなしに、個展を楽しみにした人たちがやってきます。友人、先輩、家族、、。
また、リヨさんの作品は、アーティストたちに人気です。これまでパンオスリールにかかわってきたアーテイストたち、ギャラリーオーナーも次々とやってきて、その作品と、展示の手法に感心。
特にリヨさんを応援しているのは、パンオスリールではおなじみのハートの作家、西村公一さん。ウィンドウアートの先輩として、ご自身のキットパスを貸し出すなど、面倒見のいい西村さんです。
会期中に、西村さんとリヨさん、両方のファンである女性が、遠方から訪れました。
急きょ、ふたりは、共同作品を。ハートと椅子。これは贅沢なお財布になりました。
●場と自身を、俯瞰してみる目----------------------
これまで様々な場所で開催してきた展覧会の軌跡をファイリングしたノートもお披露目されました。
これを見ると、ひとつのモチーフにこだわりながら、本当に様々な表現方法にチャレンジしていることがわかります。
今回は、同時開催で3か所で展示会をしているリヨさん。その会場によって、全く異なる顔をみせています。精力的なリヨさんです。
リヨさんは、パンオスリールの場所が好きだといいます。
今年はどんな風な場にしようかと、店全体を見回し、1年も前から「丸いキャンバスでいこう」と決めたリヨさん。
この壁をこうして、この壁面はこんなかんじに。そして店全体を見るとこうなる・・。まるでインテリアコーディネーターのように、この場をどのようにアレンジするかをイメージして作品に挑みます。一昨年の個展では、壁面全体を覆うような大作に挑んだ彼女が、今回は、小さな丸い作品をちりばめる。同時開催した銀座や清澄白河では、また、全く異なる作品を出していることからも、ひとつひとつの展示会を大切に考えていることがわかります。
ひとつひとつの作品を渾身の思いで向き合うことはもちろん、その作品をどのように見せていくかも含めて、個展は成立するのだと、彼女を見ていると学びます。それによって、壁面だけではなく、店全体の空気を変えてしまうような力を感じるのです。この、自身の作品と、場を俯瞰してみる目、自分自身の表現したいことと、それを見る人をイメージできる想像力もまた、彼女の才能の一つではないかと感じました。
また、もうひとつの特徴は、そうした緻密な作戦!?をちっとも感じさせない、彼女のふわりとした雰囲気。パンが大好きで、日頃から店を訪れ、スタッフやお客様とも気軽に話をする。誰とでも笑顔で接する彼女の「ぐるぐる」に、お客様も巻き込まれ、あたたかい気持ちになるのです。
初回の個展の時に、一目ぼれして絵を買ったお客様が、ひさしぶりに訪ねてきました。体調を悪くしてしばらく動けなかったが、丸いキャンバスを見て、気持ちがうきうきとした。と涙を浮かべていました。アートの力を感じた瞬間でした。
さて、2年後の6月。またギャラリーに帰ってきます。それまでのリヨさんと、その時のパンオスリールを楽しみにしてください。
作家より------------------------------
渋谷パンオスリールでの個展 「また 晴れたら あそぼ」 先週土曜日に無事に終了いたしました。
わりと行き当たりばったりの私にしては この場所を私の絵でどんな空間にしたいのか 1年も前から見えていました。 その1年前に思い描いていた景色を いろんな方に助けられて実現する事が出来て とてもとても満足で楽しい展示でした。
ほとんどが雨の日だったにも関わらず 足を運んでくださった皆様、 そして、SNSなどで応援してくださった皆様 本当にありがとうございました。