2020年5月12日~6月6日
新緑の時期、店内ギャラリーは、渥美順子さん。開店以来何度も個展やグループ展を開催してきたコラージュ作家の渥美さんが、これまでと全く違う一面を見せてくれる、楽しみにしていた展示会でした。
時は新型コロナで緊急事態宣言が解除かどうかという真っ盛り。人を誘うことはできないけれど、パンを買いに来る人たちに見ていただければと、中止も延期もすることなく、予定通り淡々と準備を進めた渥美順子さん。
今回の展示内容は、昨年末に天に召された渥美さんの愛犬の物語を記した絵本。
いつもいつも、渥美さんのバッグに詰め込まれて足繁く通い、少しの焼きたてのパンに真っ黒なお鼻をクンクンさせていた愛らしい愛犬・パセリは、パン・オ・スリールにとってとても大切な存在でした。パン屋も知らない、パセが順子さんのおうちに来る頃の心温まる実話が、POPな絵本になりました。
パセリと一緒にページを重ねた年月と同じように、心を込めて、かみしめるように作り上げた展示会。すべての愛犬家に見てほしい、夢見る世界が展開されました。
作家より・・・・・・・・・
この展示は、昔から夢だった犬との生活が始まり、仔犬の目線で、その暮らしに慣れるまでを、事実と空想を織り交ぜて描いた物語です。
犬と暮らすことに憧れ過ぎていた私は、いざその日が来ると、それはもう嬉しくて、また同時にとても覚悟のいることでした。
よく行っていたペットショップで、ある日、気になる黒いおチビさんと目が合いました。通り過ぎてはまた見てしまい、その子も見てた気がして。
初めて抱っこさせてもらってからも何度も通い、ついにチリチリ頭のキュートなトイプードルを迎えることになったのです。
以前から、犬種の本を読むのが好きで、犬を迎える時は、いきなり大型犬はちょっと難しいなぁ、中型小型だと子供の頃から好きだったビーグル犬?、おしゃれなジャックラッセルテリア?、愛嬌のあるトイプードル?、凛とした柴犬?、う〜ん、みんな可愛い。
性格はどうなのかな?、お手入れの回数や費用はどれくらい?、そう言うことはよく妄想していました。
しかし、ペットショップにいる犬や猫たちの、ここに来る前のことは考えたことがありませんでした。
田舎生まれの私の小さい頃は、どこかの家で生まれた子犬を譲り受けたり、捨てられている仔犬が可愛くて連れて帰ったり、そのような飼い方が多く、都会でそんな偶然に出くわすとも思えず、ペットショップで出会うものと思っていました。
ヨシ迎えるぞ!となった時、お母さんはどんな犬ですか?と尋ねたところ、血統証を見せてくれて、仔犬が九州で生まれていることを知りました。ええ?そんな遠くから来たんですか?この小さな子が?と驚きました。要するに、犬舎とかブリーダーと言う存在のことを、よく知らなかったのです。
約1年が過ぎ、パセリがすっかりお家に慣れ、自分にも余裕ができた頃、これまでのことを残しておこうとパソコンに向かい『夢みるパセリ』を描きました。
なぜそんな事を残したくなったのか?
今思えば、仔犬が遠くの犬舎から都会のペットショップに来て、ペットショップから、また私たちの家に来てくれる。この事に、どこか不思議な気持ちが拭い去れなかったのだと思います。
その時は、何がと言う明確な疑問ではなかったのだけど、この小さな仔犬は、既にけっこうな旅をして来たんだね、と言うような…
犬が生まれて1年余りというのは、本当に目覚ましく成長します。
成犬になるまでの、あっという間だけど濃密な日々!
そこでパセリが体験したことと、仔犬がコトンと寝てしまう夢の時間を想像しました。
犬との暮らしは、喜びと共に色々なことを知ることにもなりました。
犬を飼う方とも知り合い、情報交換もあり、自分で調べる事も色々あります。
フードのこと、動物病院のこと、時には何が正解か解らなくなることも。試行錯誤の日々でした。
それからブリーダーのこと、ペットショップではない所で、飼い主さんを待っている子がたくさんいると言うこと、保護犬保護猫のこと、犬や猫に対する日本での扱い、様々な事実を少しづつ知るようにもなりました。
どういう形で犬を迎えようとも、一緒に暮らせること、家族になれることは、きっときっとかけがえのない日々を経験することになると信じています。
事実、パセリとの暮らしがそうであったように。
●絵本の名前は「夢見るパセリ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギャラリーの壁には、絵本の原画が並びました。順番に読んでいくと、パセリが東京から遠く離れた山で生まれ、あたたかい飼い主の元にやってくるまで、そして都会の暮らしに慣れて家族に一員になるまでを、ゆっくりと見ることができます。幼い犬の気持ちになったり、初めての飼い主の気持ちになったりしながら、ページをめくっていくように鑑賞することができます。
合間には、渥美さんのコラージュの犬たちの作品も。
パセリが大好きなパンと一緒に、絵本の物語は進みます。
時にはランチボックス製造真っ盛りを見守ってくれます。
●絵本のモデルはこの子です ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギャラリーの半分の壁面と窓際には、モデルとなった愛犬パセリの愛らしい写真と、思わず笑ってしまう飼い主のコメントが。
パセリを知らないお客様も、熱心に見ていく姿が多く見られました。
●来店できないたくさんの人にパンと絵本を届けよう ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新型コロナウィルスは、全国に広がり、東京は緊急事態宣言。ゴールデンウィークは「ステイホーム週間」と呼ばれ、すべての人が家で過ごそうを合い言葉に、あらゆる文化的な行事が中止になる中の展示でした。パン屋は食料品店ですので、日常のパンを提供するために開店。店内で召し上がる人はいないものの、親子で、代表して一人が、パンを買いに来るときに、いっときのほっこりとした気持ちを届けてくれたワンコの展示でした。
とはいえ、「見に来て」とはお誘いできない中です。渥美さんとパン屋は相談して、「絵本とパンのセット」を通販することにしました。
静岡から、神戸から、四国から・・地方にいて、東京にはとても来れない、という人たち。渋谷にはいけないというちょっと離れた東京の人たちが、次々と注文を入れてくれました。そして「癒やされた~」「美味しかった~」という多くの感想が、パン屋に届きました。
箱の中には、パン屋からのメッセージとともに、渥美さんからのお手紙も、一つ一つ入れられました。
●渥美さんの発信 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、渥美さんは、SNSを活用して、見に来られない人たちに向けて、物語を毎日発信しました。
絵を眺めながら渥美さんのSNSの文章を見ると、読み聞かせをしてもらっているような感覚になります。
小さなお子さんが読み上げた絵本の動画も送られてきました。
もちろん、毎日たくさんのパンを食べてくれた渥美さん。パセもよくそれを見ながら、パンのかけらをもらっていたなあ。
●キープディスタンスで交流を ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会期中は、宣伝しなかったにもかかわらず、口コミで、お友達や、ギャラリーの作家さんたちが訪ねてきました。
距離を置いて横並びで食事を楽しむひととき。
●パセリ♡そしてハニコ♡ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1ヶ月の展示期間中に、渥美さんの家に、新しい家族がやってきました!
パセリの展示とニューフェイス・ハニコの登場。また新たなページの始まりです。パセリのおかげかもしれません。
会期を終えて 再び作家より・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
約1ヶ月の『夢みるパセリ展』
昨日無事終了しました。
自粛のときに、集まる事や移動する事を決してお勧めできない中、複雑なスタートでした。
出来る限りの対策をして、毎日の食事を提供する事に頑張るパン屋さんなので、パンを買いに来てくれるお客様と、スタッフさんだけでも見てもらえたらなぁと言う想いでしたが、始まってみると、パンと絵本セットの通販をご利用して下さったり、お店の棚から絵本を手に取ってくださったりと、本当にありがたくて感謝しかありませんでした。
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途中、可愛らしいお嬢ちゃんの声で、モコモコはかれアのすべイだいで、、と一生懸命朗読してくれた声♪を贈ってくれてキュンとしたり、気にかけてくださった方々も本当にありがとうございました^ ^✨
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この展示でパセとたくさん向き合う事ができ、終盤には2代目犬が現れました
嵯峨美術短期大学卒業
約17年会社員として企画制作・販売促進の仕事を経験し退職
2000年以降ハガキや名刺、シルクスクリーンでのTシャツ絵柄デザインなど制作を行う
2009年クリエイターのハンドメイドを扱う「アトリエ アシェルカ」展示販売に10年間参加し
コラージュを用いたカード類や、インテリア小物を制作
2012年水彩画家河田ヒロさん主宰のグループ展にʼ18年まで5回出展<銀座ACギャラリーにて>
2014年新店舗を構え、ギャラリーとしても様々なアートを発信し続ける天然酵母のパン屋
「パン・オ・スリール」にて、作品展、企画展を重ねる。
2014年 5月 個展 モノ思うコラージュ展
2014年11月 あたたかな贈りもの展(クリスマスの贈りもの)
2015年 7月 クリエイターズ トートバッグ エキシビション(モノ作りが考えるトートバッグ)
2015年12月 クリスマスまでの冬あそび (グラフィックデザイナー 君嶋ゆきこさんと2人展)
2017年 1月 深い森のとどけもの(コラージュ/染め花/フエルト/フラワーアートの4人展)
2018年11月 個展 いつまでも
2019年 7月 コラージュ作品をまとめた作品集 POUL TOUJOURS(いつまでも)を刊行。
2019年10月 POUL TOUJOURS(いつまでも)刊行記念個展<南青山 ギャラリー晴れ にて>
2020年5月ー昨年12月に愛犬パセリを見送り、16年前に作り置いていた絵本のデータを
ブックレットに仕上げる。普段のコラージュとは別世界の、明るく可愛い絵本を制作。