2020年7月21日~8月8日 第85回になるパンオスリールの店内ギャラリーは、高木紀子さんの個展。 タイトルはPREGARE(祈り)。 混沌とする先の見えない社会情勢の中、自らのスタイルをコツコツと極めてきた作家の魂をこめた祈りが、訪れる人の心に届きました。
「マーブリング」という手法を用い、金箔も使った作品群です。華やかでありながら、深く静かに輝いています。
高木さんは、遠い昔にマーブリンクを学び、ずっと自分の作品に取り入れられないかと思っていましたが、試行錯誤の末、最近漸くできるようになったということです。今回はすべてマーブリンクを使用した作品に統一しての展示です。油性マーブリンクにアルキド樹脂絵具(アキーラ)で描き、金箔も使用して制作しています。
さまざまなマーブリンクには、ひとつひとつに美しい世界があります。そのマーブリンクに誘われるように、人物や動植物、月や太陽を書き込んだ作品群です。
こちらは、後々、素敵な出会いを生むことになる「月」の作品たちです。 パン・オ・スリールの大きな壁面を埋め尽くす大量の作品たち。個展としてはこれまでで最も多くの絵画を展示した、意欲あふれる力強い空間になりました。 重厚な額に納められた大作のほかに、手に取りやすいマーブリングの小品も。こちらは気軽に購入して、お部屋に飾ったり、お友達へのプレゼントにしたりできるかわいい作品たちです。マーブリングが好きなお客様は多く、たくさんのパン屋のお客様が、足を止めていきました。
●ヴィオラと絵画、そして奇跡の出会いも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会期中は、高木さんの友人でもあり、パンオスリールの常連でもあるヴィオラ奏者・太田史子さんが、なんと毎日演奏会を開催しました。
それに合わせ、アートと音楽とパンをお楽しみいただけるよう、パン・オ・スリールでも、パンとワインをの特別メニューをスタートしました。
3週間の個展の日々を、絵画とともに楽しんだライブの軌跡を追いながら、ご紹介します。
7月21日(火)ソロライブ
いよいよ、期間中毎日開催のヴィオラライブがスタートしました。
この日のお客様は、ご近所の常連さん。仕事終わりのスタッフ、そしてお向かいのブティックのオーナーさん。ワインを飲みながら、生ライブを聴けるなんて!と皆さんびっくり、うっとり。 本当に久しぶりのイベントに、パン屋も涙するほど、うれしいスタートになりました。
このギャラリー展示を機会に、ソムリエの資格を持つスタッフが考案した新メニュー。 高木さんと太田さんは、毎日このセットをご注文♡
7月22日(水) ソロライブ
この日は、やはりご近所の常連さんが。親子3世代で参加してくださいました。クラシックが大好きなご家族。今年はいつものオーケストラにいくのをあきらめていたのだそうです。目の前で、家族皆で楽しめたことを喜んでいただけました。
7月23日(木) この日も、パン屋のお客様が。カウンターには、常連のワンコがうっとりと。
7月24日(金) ヴァイオリンとヴィオラの弦楽二重奏
この日はスペシャル。ヴァイオリンの黒田啓子さんとの二重奏。「子守歌」を中心に、懐かしい日本の楽曲を演奏。 高木さんの教え子だった皆さんも集まりました。
7月25日(土) ソロライブ
高木さんの教え子さんたちと、パンオスリールに足繁く通っていただいている親子さんたちなど。 バッハの無伴奏チェロ組曲と、映画音楽の「ひまわり」は、パン屋という場に日ごとになじんでいくようです。
そして、この日は、昼間にランチに来ていた女優・有森也実さんが参加。新型コロナの影響で舞台が中止や延期になる中、この小さなライブを心から楽しんでくれました。「ライブって本当にいい。」「もしご迷惑でなければ、朗読で参加させていただけますか」という提案がありました。 この提案は、あっという間に実現の日を迎えることになります。
7月28日(火) ソロライブ
この日は、パン屋のギャラリーの常連の作家さんが訪ねてくれました。気になる個展があるといつも顔を出し、パンを買ったりお茶を飲んだりしながらゆっくりと過ごしてくれます。作家さんどうし、意気投合。 バッハの無伴奏組曲、ビーバー ロザリオ。圧巻でした♫
7月29日(水) ヴィオラとヴィオラの弦楽二重奏
この日は、太田さんがオーケストラで一緒に仕事をしていた松井啓子さんのヴィオラとのヴィオラ二重奏です。 合わせる楽器、というヴィオラ同士は、とても美しく、一部の狂いもないハーモニー。
7月30日(木) ソロライブ
この日のお客様は、パン・オ・スリールで「サステナブルシーフード」のイベントを開催した皆さんや、スタッフなど。
7月31日(金) ソロライブ
この日は、高木先生の教え子の皆さん、仕事帰りの常連さんなどなど。日に日に参加者、そしてリピーターが増えていきます。
9月に個展を開催する作家さんも、打ち合わせの後にライブも参加。
8月1日 (土) ソロライブ
この日は、高木さんのアートの大きな転機となったアキーラという絵の具に関わるお客様が。 そして、パン屋のスタッフも休みの日にお友達と参加。常連さんも。「静かに、節度を守って」は、そのままに、なごやかな時間が流れました。
8月4日(火) ソロライブ
スタッフも家族を連れてリピート。アートが大好きなお客様も飛び入り参加。
8月5日(水) ソロライブ
一日もお客様のいない日がないという奇跡の連続。
もし、誰も来なくてもお店に捧げるつもりで弾こうと決めていた太田さんでしたが、それは杞憂だったようです。
連日、ちょうどいい数の人たちが集まり、7名を超えると下の広いお席から楽しんでいただくことができました。
今日も元気な太田さん。出勤するようにやってきます。「今日もパン食べるぞ~」。
8月6日(木) ソロライブ
この日は、アートと音楽と朗読とパンと・・。ご縁がつながったヴィオラと朗読の会を開催しました。
ヴィオラ演奏を聴きにきた、女優の有森也実さんの発案で、急きょ実現したコラボ。 急きょとはいえ緻密に選曲したヴィオラ奏者太田史子さんの演奏と、高木紀子さんの月の絵がぴたりと合い、美しく切ない語りは、心深く響きました。
有森さんはフェイスシールドを持参。お客様はマスクをつけて距離をとり、少人数ではもったいないね、贅沢だったねと。
8月7日(金) ヴィオラとヴィオラの弦楽二重奏
2回目のヴィオラの二重奏です。 この日に、「パン屋のパルフェ」が生まれました。早速、ライブのリピーターの常連さんがご来店。パフェの一番乗りもめざし。ちょうど、音合わせのリハーサルも独占し、これは一人で贅沢なひととき。うらやましい。
ライブは、ご近所のお孫さん連れのご近所さんや、リピートの皆さんで。小さなお子さんもマスクをしっかりつけて、いい子にしていました。
演奏の前後は、絵画を楽しみます。 ヴィオラの太田さん同様、毎日通う高木さんから、ひとつひとつ、作品の説明を受けることができて、ファンもたくさん増えました。 さすが学校の先生。技法や絵の具の歴史、テンペラ画とは何かなど、美術の講義を聴くように、皆さん熱心にアートを巡ります。
8月8日(土) ソロライブ
とうとう最終日。かけつけてきた多くの知人。パン・オ・スリールで個展をした人たち。また、朗読をした有森さんも。様々な人がやってきて、アートと音楽とパンとワインを楽しみました。 パンを買いに来た常連さん
お盆明けの「キットパス皆画展」の作品を持ってきた作家さん。彼が去年開催した店内ワークショップに高木さんが参加したという歴史も。
太田さんのヴィオラは力強く、高木さんのアートは華やかに、パンオスリールにぴったりと寄り添い、その一部になっていくようでした。 最後はアンコールで、店主に向けて「アメージンググレイス」。そして、すべての思いを包み込んでくれる「アヴェマリア」をプレゼントしてくれました
。 太田さんをパン・オ・スリールに連れてきてくれたハートの作家。4年前には、店内のライブパフォーマンスでバッハを弾いたことも。
来年またねと約束し、熱い暑い3週間が終わりました。本当にお疲れ様でした。この小さなパン屋のギャラリーを、大切に活用してくれたことを心から感謝します。
お客様からの感想メッセージをご紹介・・・・・・・
月の絵がきれいでした。 縦長のキャンバスに描いた三日月も良かったけれど正方形の満月にははっとさせられました。 最初に近くで観たときは、写実的な満月の上に金の流紋模様があり、何の表現なのか良くわかりませんでした。 琳派がファンタジーアートを描いたらこうなるかも、などと無礼を申しあげました。 作家さんから「ちょっと離れてみたら良い」とうかがって目からウロコが落ちました。 流紋模様と見えた線が月に照らされて輝く群雲になったのです。観る確度を変えると雲の輝く場所と沈んで見える場所が入れ替わり、偏光顕微鏡で鉱物を観るような、不思議な感覚がありました。 コロナ禍のご時世で、美術館にはなかなか行けませんが、久しぶりにナマの美術を観させていただき、目の保養になりました。 バッハも聴けたので満足、満足。
バッハの無伴奏チェロ組曲、よかったですよ。 一音ごとにしんと心が鎮まるのがチョクに感じられるのは、奏者の間近で聴いていたからでしょう。また行きたい。
作家より・・・・・・・・・・
高木紀子 個展 PREGARE Ⅲ 本日終了致しました。 3週間(15日間) の開催でした。
プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
高木 紀子 Noriko Takagi
絵画を制作しています。
2010年 第1回「小さな絵の大博覧会」 において、
人気投票1位、2位を獲得。(ドラードギャラリー主催)
2010年 第1回「創作表現者展」 においてクサカベ賞を受賞。
2010年 第1回個展 「PREGARE」 ドラードギャラリー
2012年 「風見規文 高木紀子 展」 ドラードギャラリー 2012年 第2回「創作表現者展」 においてクサカベ賞を受賞。
2018年第2回個展「 PREGAREⅡ」 ギャラリー枝香庵
2020年第3回個展「 PREGAREⅢ」 Pain au sourire
グループ展多数。
女子美術大学芸術学部 絵画科 日本画専攻卒業。
日本女子大学附属中学校・高等学校美術科教諭。
タイトル「PREGARE」について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ PREGAREとは「祈る」というイタリア語です。私はいつも中学・高校生に、「音楽は聴いてすぐに元気になれる力があるけれど、実は絵画も一緒なのだよ。」と話しています。絵画には描いた人の思いがこもっていて、ずっとライブのようにその思いを発信し続けているのだから、と。私の絵画に込めた思いが見て下さる方に伝わりますように。